蜜愛シンドローム ~ Trap of Kei 2 ~
慧はシャツの胸ポケットから何かを取り出した。
銀色に輝くそれは……。
固まった絢乃の左手を、慧はそっと取った。
そのまま優しい手付きで絢乃の薬指に嵌めようとした、その瞬間。
絢乃の胸に本能的な嫌悪感が突き上げた。
沙耶がこの指輪を嵌めた時のことが脳裏に蘇る。
あの人が嵌めた指輪を、身に付けたくない。
――――慧との間に、あの人のことなどカケラも入れたくない。
絢乃はとっさに手を振り払った。
「……嫌っ!!」
言葉と共に、カランと音を立てて指輪が床に転がる。
指輪は床の上でくるくると回り、やがて小さな音を立てて止まった。
絢乃は自分が何をしたのかわからぬまま、呆然と宙を見据えていた。
凍るような静寂がリビングに満ちる。