蜜愛シンドローム ~ Trap of Kei 2 ~
桜の時期といえど夜は肌寒い。
絢乃は不忍池の周りに植えられた桜の木を見上げながら、慧の隣を歩いていた。
濃い藍色の夜空の下、橙色の街灯に夜桜が映えている。
夜風に吹かれ、ざざっと枝をしならせて桜が吹雪く光景は幻想的で美しい。
公園の方では会社や学生サークルの集団が花見の宴をしている。
卓海の話では絢乃の会社も数年前までここで新入社員の歓迎会をしていたらしいが、場所取りがあまりに苛烈なのと風紀的な問題でいつしか取りやめになったらしい。
見ると、公園の端の方の宴席で酔っぱらったサラリーマン達がネクタイを振り回しながら何やら奇声を上げている。
その隣の宴席では大学のサークルだろうか、男子学生達が新入生の女子学生を囲んで何やら怪しげなゲームをしている。
夜桜は綺麗だが、その下は一言で言うと――――カオスだ。
取りやめになった理由をなんとなく理解し、絢乃はハハと乾いた笑いを浮かべた。
そのとき。
「アヤ、危ない!」
ぐいと横から腕を引かれ、絢乃ははっと背筋を強張らせた。
見ると、自分のすぐ前にぬかるんだ溝がある。