蜜愛シンドローム ~ Trap of Kei 2 ~
3.美しく儚いもの
<side.慧>
仄暗い部屋の中、緑色に光る針が25時を指している。
日を跨ぎ、遅れて上った月の光がカーテンを透かして部屋の中に忍び込んでくる。
「アヤ……」
慧は絢乃の艶やかな髪をそっと撫で、額に口づけた。
絢乃は慧の腕の中ですぅと穏やかな寝息を立てている。
あの事実を知ってから一週間。
絢乃の心と体の変化に慧はすぐに気付いた。
それはこれまでの経緯を考えれば、起こるべくして起こった『ひずみ』だ。
――――絢乃と男女の関係になったのは、三か月前。
絢乃の前で兄でいることが辛くなった慧はマンションを出、絢乃から離れた。
そして元の関係に戻りたいと願った絢乃を、あのクリスマスの夜、慧は半ば脅すような形で無理やり手に入れた。
『今夜だけでいい、お前が欲しい。……そうすれば明日から、お前の兄に戻るから』
絢乃は自分と元の関係に戻りたい一心でそれを承諾した。
しかしその一夜は二人の関係を根底から変えてしまい、そして……。
数日後、苦悩の極致にいた絢乃を、慧は『迷うのが辛いなら迷わないようにしてあげる』と半ば強引に自分の恋人にした。