蜜愛シンドローム ~ Trap of Kei 2 ~
あのとき兄と卓海の間でどんな会話が交わされたのか、絢乃は知らない。
俯いた絢乃のグラスに卓海はこぽこぽとビールを注ぐ。
その端正な顔には相変わらず猫被りの優艶な笑みが浮かんでいる。
「ほら、飲んで? ……あ、飲めるよね? ダメってことないよね?」
「……大丈夫です」
絢乃は掠れた声で言った。
卓海は鬼だが、女慣れしているせいか細かい気遣いをしてくれる。
卓海が言外に匂わせたのは、妊娠してないか?ということだ。
――――妊娠。
そのことを考えると、絢乃の胸に暗い靄のようなものが広がっていく。
妊娠、子供……。
絢乃は俯き、テーブルの下でぐっと指を組んだ。
――――自分は、慧の子供を残すことができない。
この世でただ一人、体を繋ぐことを許された人……。
なのにこの世でただ一人、自分だけは慧の子供を残すことができないのだ……。