蜜愛シンドローム ~ Trap of Kei 2 ~
三章
1.想定外の事態
翌日。
17:00。
絢乃は眠気でフラフラした頭で会社を出た。
あの後、朝方に休憩室で仮眠を取ったものの、そのまま立て続けに急ぎの仕事が来てしまい……。
仕事はどういうわけか来るときにはまとめてやってくる。
絢乃は凝った肩をコキコキと鳴らし、肩にかけた鞄を持ち直した。
本当は18時が定時なのだが、『仕事が片付いたらすぐに上がれ』と卓海に言われ、絢乃はその言葉に甘えて一時間早く上がることにした。
会社を出たところで携帯を取り出し、慧のアドレスを表示する。
そのまま通話ボタンを押そうとした、その時。
「こんにちは、絢乃さん?」
横から掛けられた声に、絢乃は息を飲んだ。
長い黒髪にサングラス、春物のコートをまとったその女性は……。
「……っ、角倉さん……」
「もう仕事上がりかしら? 早いわね」
「…………っ」
「でもちょうど良かったわ。話があるの。来てくれる?」