【短】『さよなら』と言えたら、苦しくないのに。
 ※ ※ ※ ※ ※ 


「ただいまー」


お兄ちゃんの声が玄関から聞こえて、あたしは嬉しくなった。


いつもよりも、帰ってくるのが早い。


今日は部活なかったのかな?

友達と寄り道してこなかったのかな?


そんなことを考えながら。

リビングから玄関まで、お兄ちゃんを迎えにいこうとソファを立った時、


「おじゃましまーす」


女の人の声が、廊下に響いた。


あたしの足は、ピタリと止まって。

一歩も動けなかった。



リビングの扉が、ガチャリと音をたてて開く。


「あぁ、なな。お前も帰ってたのか?」

「うん……」


あたしの視線の先を見て。

お兄ちゃんは、照れたように笑った。


「あ、この人、彼女。山野さんって言うんだ。あいつが七華、話したことあるだろ?」


お兄ちゃんが、あたしと隣にいる女の人に、それぞれ交互に紹介する。


「へぇ~本当に似てないんだね、兄妹なのに」

「だろ?」

「妹ちゃん、かわいいね!」

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