【短】『さよなら』と言えたら、苦しくないのに。
お兄ちゃんとお嫁さん。


二人で手を重ねて、リボンのついたナイフを持った。

ウェディングケーキに入刀すると、眩しいくらいのフラッシュが二人に浴びせられる。


お兄ちゃんの姿は、絶えないフラッシュの光に包まれて見えない。


ただ、曖昧な影がぼんやりと映るだけ。


その後、すぐに。

お兄ちゃん達は、切ったばかりのケーキをお互いに食べさせ合いっこ。


お嫁さんのフォークがお兄ちゃんの鼻に当たって、会場が笑いに包まれる。


だけど。

あたしは、笑えなかった。


お兄ちゃんの、幸せそうな顔を見てると。

涙が浮かんできそうで。


必死に、必死に、こらえてるから。



あたしが、泣きたい時。


「泣いていいよ」


いつも、そう言ってくれたのは、お兄ちゃんだったね。

そうして、あたしが泣き止むまで、何も言わずにただ傍にいてくれた。


あたしが、涙を我慢している時。

誰よりも一番早く気付いてくれてたのも、お兄ちゃんだったの。



どんなに隠しても、ごまかしても。

お兄ちゃんだけは、気が付いちゃうんだ……

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