【短】『さよなら』と言えたら、苦しくないのに。
 ※ ※ ※ ※ ※ 


学校から家に戻ると。

ママが、悲しそうな顔であたしに言った。


「チロね、さっき眠ったの。もう、きっと目を覚まさない」

「ママ……?」

「チロにお別れを言ってあげて?」


あたしは、すぐに信じられなかった。

ママの言ってることが分からなかった。


だけど。

犬小屋に、眠ったみたいに丸くなったチロに、そっと触れたとき。


チロが、あまりに冷たくて、びっくりして。

怖くて、悲しくて、指が震えた。


あたしが生まれる前から、ずっとうちにいたチロ。

そろそろ寿命だって、知ってた。


でも、本当に別れなきゃいけない日が来るなんて思わなかったの。


チロって呼んで、思い切り泣き出したかった。


でも。

あたしが泣いたら、パパとママが心配しちゃう。


二人だって悲しいのに、あたしのせいでもっと悲しむなんて、嫌だから。


「今までありがと、チロ」


涙を一生懸命我慢して、チロにお別れしたんだ。


その日の夜。

あたしは自分の部屋で、声を押し殺して泣いてた。

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