【短】『さよなら』と言えたら、苦しくないのに。
だけど……


コンコン。


扉をたたいた、二回のノック。

あたしは手の平で涙を拭って、出来るだけいつもみたいに返事をした。


「は~い、どうぞ」

「なな」


入ってきたのは、お兄ちゃん。


「お兄ちゃん、どうしたの?」

「お前、我慢してるじゃないかって思って」

「……お兄ちゃん?」

「チロを一番可愛がってたのは、お前だったもんな」

「………」

「なぁ、なな。泣きたいときは、我慢しなくてもいいんだぞ」


お兄ちゃんがそう言って、あたしの頭の上に、ぽんと手を置いたとき。

あたしの目に、いっぱい涙がたまった。


「父さん達には秘密にしとくから。俺の前じゃ無理するな」


その後、あたしは目が腫れるくらい、大泣きして。

お兄ちゃんはそんなあたしの真っ赤な目を見て、「うさぎみたいだ」って笑った。



あの時。

お兄ちゃんがいてくれて、すごく助けられたよ。


あたしにすぐ笑顔が戻ったのは。

きっと、お兄ちゃんのおかげだったね……


 ※ ※ ※ ※ ※

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