【短】『さよなら』と言えたら、苦しくないのに。
お色直しのために、一度退場したお兄ちゃん達を見送って。

あたしは、運ばれてくる食事に箸をつけた。


だけど、胸がいっぱいで、全然喉を通っていかない。



あたしは、今日、一つ決意をしている。


この披露宴が終わったら……

お兄ちゃんを忘れようって。


本当に大好きで。

いつだってあたしは、お兄ちゃんの背中を追いかけてた。


あたしのこと、「なな」って呼んでくれると嬉しくて。

「ななか」って名前が、特別に思えた。


ううん、名前だけじゃない。

お兄ちゃんがあたしにしてくれることは、いつでも全部、特別だった。


でも。

どんなに好きでも、想っても。


あたしの気持ちは、叶わないんだ。

あたしがお兄ちゃんの隣に立てる日なんて、一生こない。


あたし達は、兄妹だから。


だから……

諦めようって、諦めなきゃいけないって思ったの。



今日は、あたしがお兄ちゃんを好きでいる、最後の日。


お兄ちゃんをこんな風に想えるのは、今だけ……

< 15 / 39 >

この作品をシェア

pagetop