【短】『さよなら』と言えたら、苦しくないのに。
お色直しに、キャンドルサービス、祝辞。

ゆっくりと、でも確かに時間は過ぎていく。


キャンドルサービスで家族席に来たお兄ちゃんは、あたしにいつもの優しい笑顔を見せてくれた。


胸が、締め付けられるように苦しくなって。


でも、あたしも笑顔を浮かべた。

この瞬間だけは、照明が落とされてて、本当に良かったって思う。


だって。

あたしのぎこちない笑顔を、暗闇が隠してくれるから。


テーブルの上で、ゆらゆら燃えている蝋燭の火。

息をそっと吹きかけると、消えてしまいそう。


まるで、今のあたしの心みたい。

あたしの心も、消えたら……


こんなに、辛くないのかな……



ねぇ、お兄ちゃん。


好きで、好きで、どうしようもなくて。

息をするのも、苦しいほどで。


そんな気持ち、お兄ちゃんは知ってる?



あたしね。


お兄ちゃんの妹に生まれなければ。

きっと、こんな恋は一生知らなかったよ。

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