【短】『さよなら』と言えたら、苦しくないのに。
 ※ ※ ※ ※ ※ 


「ななに、報告したいことがあるんだ」

「報告?なぁに?」


照れたみたいに笑って、お兄ちゃんは言った。


「俺、結婚しようと思ってる」


すぐに言葉が出なくて。

あたしは、ただお兄ちゃんを見つめた。


「父さん達には、まだ話してないんだ。だから、お前も秘密にしとけよ?」

「……うん……」

「ななに一番に報告したくてさ」


結婚、なんて。

そんな報告なんて――知りたくもなかった。


お兄ちゃん……

お兄ちゃん、あたしは……


「……おめで、とう……」

「ありがとな。お前も、早くいい人見つけろよ?」


あたしの頭をガシガシ撫でて、お兄ちゃんは笑った。


でも……


「いい人なんか、見つからないよ……」

「いいや。きっと見つかるって」


お兄ちゃんはあたしをまっすぐに見て、言ったんだ。


「お前は俺の、自慢の妹なんだから」


 ※ ※ ※ ※ ※ 

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