【短】『さよなら』と言えたら、苦しくないのに。
パパとママが、静かに席を立って歩いていく。

花束贈呈の時間。


披露宴も、もう終盤を迎えていた。


お兄ちゃんがお嫁さんのご両親に何か話して、花束を渡す。

お嫁さんも、パパとママに花束を渡して。


ママは感動のあまりにこぼれた涙を、ハンカチでふいた。



あたしも、ママみたいに泣きたかったな。

でも、一度泣いたら、もう止まらなそうで……


だから、泣けない。



「本日はお忙しい中、私達二人のためにお集りいただきまして、ありがとうございました」


お兄ちゃんが、マイクの前で謝辞を述べ始めた。


大好きな、お兄ちゃんの優しい声。

ずっと、ずっと聞いていたい。


いつもよりも凛とした表情のお兄ちゃんは、やっぱりカッコよくて。

あたしの胸は、ぎゅうっとなる。



ねぇ、お兄ちゃん。


ちっちゃい頃は、あたし達、いつも一緒だった。


だけど。

大きくなるにつれて、どんどん距離が出来ていったね。

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