【短】『さよなら』と言えたら、苦しくないのに。
ねぇ、お兄ちゃん?


こんなこともあったね。



あたしに、初めて彼氏ができたとき。

お兄ちゃん、こう言ったんだ。


「ななに彼氏なんか出来たら、俺、淋しいな」


お兄ちゃんは、きっと、意味なんかなくて言ったんでしょ?


でも、あたしには十分だったよ。


その次の日に、あたし、その子と別れたの……


あたしが付き合ったのはね、お兄ちゃんを忘れるためだったんだよ。


別に、好きなわけじゃなかった。

でも、これから好きにならなきゃって、そう思ってた。


お兄ちゃんじゃないなら、誰でも同じだから。

だから、一生懸命、無理して頑張ったのに。


お兄ちゃんが、あたしの前で淋しいなんて言うから。

冗談でも、淋しいなんて……言うから。



お兄ちゃんの一言で、いつだって、あたしの気持ちはくるくる変わった。


落ち込んだり、喜んだり、傷付いたり。

泣いたり、笑ったり、拗ねたり。


全部、ぜんぶ。


お兄ちゃんが、あたしにくれた感情だったよ。

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