【短】『さよなら』と言えたら、苦しくないのに。
「――以上を持ちまして、披露宴をお開きとさせていただきます」


司会者の閉宴宣言の後に、お兄ちゃん達がゆっくりと退場する。


瞬きする時間さえも惜しくて。

あたしは、一秒も見逃さないようにお兄ちゃんを見つめた。


お兄ちゃんが、あの扉をくぐったら。

この恋は終わり。


終わりにしなきゃいけない。



お兄ちゃん。

お兄ちゃん。


大好き。

本当に、大好きなの。


いつかこんな日が来るって、わかってた。


わかってたけど。

どうしても、諦められなかった。


せめて、気持ちを伝えられたら……

もっと楽だったかな?


でも、そんなこと、きっとあたしには出来ない。


だって、お兄ちゃんのこと、困らせるってわかってるから。

困った顔なんて、あたし、させたくないから。


だから、この気持ちは。

あたしの心の中だけに、そっとしまっておくね。

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