【短】『さよなら』と言えたら、苦しくないのに。
 * * * * * 


「なぁ、ハル。妹ちゃん紹介してくれよ」

「は?」


俺は信じられない思いで、その声の元を見た。


「ナナミちゃんだっけ?メチャクチャかわいーじゃん!」

「ななか、だよ」

「そうそう、ナナカちゃん!紹介してくんねぇ?」

「やだよ、何でんなこと」

「そこをなんとか!オレ超タイプなんだよなー」


無性にイライラする。

何でこんなに腹が立つんだ。


「彼氏とかいねぇんだろ?だったらオレが、」

「いい加減にしろよっ!!」


気付いた時には、そう怒鳴っていた。

一瞬だけ驚いたそいつが、すぐに不機嫌そうに呟く。


「なんだよ、冗談だよ。んな怒んなよなぁ……」

「お前がしつこいからだろ」


それだけ言い捨てて、俺はその場を離れたけれど。

どうしようもない苛立ちは、俺の中にしばらく残り続けた。



ななの……妹のことを言われたぐらいで、どうしてこんなに腹がたつのか。

その理由の欠片も、あの時の俺にはまだ分かってなかった。


そして――

それが汚い独占欲だと俺が知るのは、もう少し後の話だ。


 * * * * * 

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