【短】『さよなら』と言えたら、苦しくないのに。
 * * * * * 


「お兄ちゃん、あたしね?」


少し戸惑いがちに、ななが口を開いた。

なながこんな顔をするなんて、よほど言いにくいことなんだろう。


「どうした?」


そう問いかけたことを、次の瞬間、俺は激しく後悔することになる。


「あたし、彼氏ができたの」

「……彼氏?」

「付き合ってって告白されて。今日、OKしたんだ」


なんだよ、それ。

付き合う、だって……?


「同じクラスの子なんだぁ。結構カッコイイんだよ」

「お前、そいつのこと好きなのか?」

「……え……」


一瞬だけ、確かにななの目が泳いだのを、俺は見逃さなかった。


「……好き、だよ。当たり前じゃん……」


そんな見え透いた嘘つくなよ。

俺にお前の嘘なんか通用しないって、十分分かってるだろ。


「今度、お兄ちゃんにも紹介するね!」


わざと元気にそう言ったななの表情は、どこか曇っていて。

俺は見ていられなかった。


いや……

見ていたくなかったんだ。

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