【短】『さよなら』と言えたら、苦しくないのに。
なな、お前が好きなのは他のヤツだろ?


――俺だろ?


それなら、そんなヤツと無理して付き合うことない。

俺を忘れるために、俺の目の前で、他の男のものになるなんて。


そんなこと、許せない。

許さない。


俺の中に存在している醜い独占欲、汚れた執着。

一度現われたそれを理性で抑えることが、どうしても出来なかった。


「お前ももうそんな年頃なんだな。でも」


この一言で、きっとななはそいつと別れる。

それを確信していて、俺は言ってやった。


妹の幸せを願うのなら、言うべきではなかった言葉を。


「ななに彼氏なんか出来たら、俺、淋しいな」

「おにい…ちゃん……」


あの日見たななの悲しげな笑顔は、一生忘れることができないだろう。



――最低だ。


ななの気持ちを知っているのに、それに応えてやることは出来ない。

だけど、ななが俺を忘れて他の男のものになることも許せない。


それが、どんなにななを傷つけることになるか、理解しているのに。


この腕から、妹を解放してやることが出来ないんだ。


 * * * * * 

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