【短】『さよなら』と言えたら、苦しくないのに。
 * * * * * 


「辛くないか?」

「……だいじょうぶ、だよ……」


心配をかけないように、と平気なフリをする妹。


だけど、大丈夫なわけがない。

こんなに真っ赤な顔で、苦しそうに呼吸して。


流行風邪に倒れたななは、今日を含めて3日も寝込んでいた。


「熱、まだ高いな……」

「下がったよぉ……」

「またぶり返すかもしれないだろ」

「も…お兄ちゃん……心配性」

「心配もするよ。そろそろアイスノン溶けてきただろ?新しいの持ってくる」


立ち上がろうとした瞬間。

ななが、俺の服のすそを掴んだ。


「……いか、ないで……」

「なな?」

「眠るまで…一緒にいて……」

「分かった。じゃ、目閉じな?」


言葉通り、ななが素直にまぶたを降ろす。

ふとんを掴んでいるななの手を、俺はそっと握った。


「お兄ちゃんの手……冷たくって、気持ちいい」

「ななが熱いからだろ?」


クスクスと笑って、ななは「そっかぁ」と呟いた。


「お兄ちゃん、一個だけわがまま、聞いて……眠るまで…そばにいて……ね」

< 31 / 39 >

この作品をシェア

pagetop