【短】『さよなら』と言えたら、苦しくないのに。
「分かったから。ほら、もう寝ろ」

「やくそく、だよ……おや、すみ……」


数分後、静かな寝息が聞こえてきた。


「なな……起きてるか?」


返事はない。

ああ、本当に眠ったみたいだな。


「無防備な顔して……」


指で触れたななの頬は、熱のせいでやっぱり熱い。


「……ごめん、なな……」


好きになって、ごめんな……


こんな想いは許されない。

痛いほど、苦しいほど分かってるよ。


だけど、これが最初で最後だから。


薄く開いたななの唇に、俺は静かに自分のものを重ねた。


一生に一度のキス。

俺だけが知っている罪だ。


彼女の頬に、俺の目から溢れた涙が落ちていった。


今だけ、この言葉を言うことを許してほしい。

もう二度と言えないだろうから。


ななには、永遠に届かない言葉。


「――愛してるよ……」


 * * * * * 

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