【短】『さよなら』と言えたら、苦しくないのに。
『お兄ちゃん』


ななが俺をそう呼ぶことで、理性は繋ぎとめられていた。

それは、きっかけさえあれば簡単に切れてしまえる程、きっと脆くて。


好きで、好きで。

この気持ちを捨ててしまえたらと願うくらい、好きで。


奪えるものなら、奪ってしまいたかった。

その手を取りたかった。


でも、一歩進めば後戻りは出来なくなる。

振り向くことさえ許されない。


俺は――ななをそんな世界に連れていけない。



だから、何度も言い聞かせたよ。

誰にも祝福されない恋だから、と。


そして、何度も自分に問いかけた。

どうして妹を好きになったんだろう、と。


女なんて他にいくらでもいるじゃないか。


でも、声が違う。

指が違う。

体温が違う。


その度に落胆して、嫌悪して、苦悩して。

そんなことを繰り返すうちに、少しずつ何かが麻痺していった。


同時に、諦める方法を探すようになったんだ。


ななの幸せのために。

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