【短】『さよなら』と言えたら、苦しくないのに。
手に入らないなら、せめて誰にも渡したくない。

そんな独りよがりな考えを持った時期もあった。


でも――

ななには幸せになって欲しい。


そのために俺がした決断は、俺自身がななから離れることで、ななの恋を終わらせること。



――この結婚は、ななのためにするものだ。


相手の女性にも、すべて分かってもらえてる。

俺と彼女は好き合って結婚するんじゃない。


お互いに形だけの結婚相手が必要だった。

ただ、その目的が一緒だっただけ。


はじめから割り切った仮面夫婦になるなら、誰も不幸にはならない。


なな以外を好きになれないなら、一生一人でいようと思ってた。

でも、それじゃななはいつまでも前に進めないから。


俺の人生をかけて、ななに自由と幸せを。



「いい人なんか、見つからないよ……」

「いいや。きっと見つかるって」


大丈夫だよ。

今がどんなに辛くても、この瞬間でさえ過去として受け入れられる日がいつか来る。


何もかもすべて、穏やかな心で思い出せるようになるから。


そして、


「お前は俺の、自慢の妹なんだから」


幸せになれないはずはないから。


 * * * * * 

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