【短】『さよなら』と言えたら、苦しくないのに。
 ※ ※ ※ ※ ※ 


時間は、残り30秒。


『67:65』


お兄ちゃんがいるチームは、2点差で負けてる。



あたしは瞬きすることも忘れて、試合をじっと見つめた。

もしもこのまま負けてしまったら、決勝には進めない。


コートに立っているお兄ちゃんは、左手につけたリストバンドで汗を拭ってる。


――頑張って、お兄ちゃん……



笛が短く鳴って、味方のメンバーが、ドリブルしながら攻め込む。

だけど、相手チームのディフェンスはしつこくて。


苦しみながら、やっとのことで出したパス。

近くに走って行った、お兄ちゃんが受け取った。


残り、10秒。


「ハル、打てっ!」


誰かが叫んだ。


その瞬間。


赤い7番のユニフォームが、ふわりと浮いて。

お兄ちゃんが3Pラインから打ったボールは、高く高く、弧を描いて。


あたしは息をとめながら、ボールを見つめた。


スローモーションで、回転しながら、ゆっくり落ちていく。

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