【短】『さよなら』と言えたら、苦しくないのに。
その瞬間を、体育館にいる誰もがじっと見つめてた。


――パサッ……


ボールは静かな音を響かせて、リングへと吸いこまれていく。


電光掲示板の数字は、『67:68』


ビ―――ッ!!


試合の終了を告げる大きな音と一緒に、大歓声が湧き上がった。


コートに立っていたお兄ちゃんに、他のメンバーがいっせいに走っていって。

お兄ちゃんは、皆にもみくちゃにされた。


嬉しそうに笑って、抱き合って。


――そして。


体育館の隅で、試合を見ていたあたしににっこり笑って。

グッと力強く、親指を立ててみせた。



あたしね、あの時決めたんだ。


あたしも、お兄ちゃんと同じ、バスケ部に入ろうって。

お兄ちゃんみたいな、最高にカッコイイ、スリーポイントシューターになろうって。



あたしの初めての試合の時、


「逆転リストバンドだから」


そう言って、左手にはめてくれたリストバンド。


今でもね、大切に持ってるよ。


 ※ ※ ※ ※ ※

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