【短】『さよなら』と言えたら、苦しくないのに。
お兄ちゃん達の披露宴は、順調に進んでいく。


祝辞が終わって、乾杯の音頭もとって。

みんなが、二人のことを心から祝福してる。


そんな中。

あたしはただ、遠くのお兄ちゃんを見つめてた。



ねぇ、お兄ちゃん。


お兄ちゃんとあたし。

思えば、ケンカもほとんどしなかったね?


お兄ちゃんは、いつも優しくて、あたしに甘くて。


どんなわがままを言っても、


「ななのためだもんな」


そう言って、笑いながら頷いてくれたよね。



だから……

あたし、勘違いしちゃったんだ。


お兄ちゃんは、『妹』だから優しかっただけなのに。

『家族』だから、傍にいてくれただけなのに。


あたし、それに気付けなかった。


お兄ちゃんの優しさに甘えて。

お兄ちゃんの『特別』になったつもりでいたの。



それが違うって、思い知らされたのは……

あたしが、中学生に上がったばかりの時だった。

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