エリート外科医の甘い独占愛
このマンションは、ワンフロアに2世帯。
留守がちな隣人とは一度も顔を合わせて事がないと卓志は言っていた。
さすがの彼女も押し黙り、中から出てきた人物に視線を向けた。
私は自分の目を疑った。
あの人が、どうしてこんなところにいるの?
卓志も驚いた様子でチラリと私を見てから、「伊崎」そう名前を呼んだ。
伊崎先生は「こんばんは」と頭を下げて、私の横に並んだかと思うと、その手を腰にまわしてきた。
「伊崎先生?」
ただ戸惑うしか出来ない私にニッコリと微笑みかけると、伊崎先生は言う。
「汐、また間違えて隣の家のインターフォンを押したの?もう、いい加減覚えたらどう?」
「――え」
思わず伊崎先生の顔を見上げると、まるでキスをするように頬を寄せ、「いいから僕に従ってください」と耳打ちする。
「なんだかお騒がせしてしまったみたいで、もし訳ありませんでした。ほら、汐も謝って」
伊崎先生にそういわれて、私は小さく頭を下げる。
「すみませんでした」
「では、失礼してもよろしいでしょうか?」
先生は卓志と奥さんに軽く会釈すると、私の手を引いて出てきた部屋へ向かって歩き出した。