みだりな逢瀬-それぞれの刹那-
最近の独裁ぶりによる情況悪化を理由に、簡単に言えばクーデターを真昼間(私たちを置き去りにしてすぐ)に起こしたというわけ。
おまけに一切の温情を見せず、経営権をはく奪。まさに勇退という名の失脚だ。
「よくあの短時間でやってのけたわね」
「これで二度と馬鹿な真似は出来ない。一挙両得だ」
タヌキ親父から椅子を奪った新社長の表情には、暗いものを感じてならない。
いとことして、この男の抜かりのなさは重々承知している。……きっと材料を揃えながら切り札として用意していたな。
「ていうか、アンタ知ってたのね。――早水がFW物産の息子って!」
「ついでに言えば、東条グループの傘下であり東条家の分家だ。
ま、早水さんは二男で跡を継ぐ必要はなかったようだが」
「はあああ!?それ、あたしきーてないっ!」
口をあんぐり開けたまま隣を見れば、チッと小さな舌打ちをして皇人を見ている当人。
泣く子も黙る、日本屈指の名家といえば東条家。
その東条グループといえば世界にもその名を轟かせており、長年日本経済界のトップをいく企業だ。