みだりな逢瀬-それぞれの刹那-
「……それは出来かねます」
このやり取りは本日、これで何度目になるのだろうか。
そろそろ同じセリフを言うのも飽きてくる。ハァ、と投げやりな溜め息をつくのも致し方ないだろう。
すなわち、話し合いが平行線を辿っていると暗に示しているこの状況は面倒なもの。
「じゃあ朱祢は、俺と一緒にいたくないの?」
「そうではありません」
「なに離れてんの?」
折角ほんの少し横にずれて空いた間隔もすぐに詰められてしまった。
「……気分です」
「却下」とにべもなく言い、小さく舌打ちする私を楽しそうに見てくる。
広々とした革張りソファで“あえて“隣に座る男が、この話を拗らせる張本人。
――それが私の元ボスであり、今は恋人のような存在の高瀬川 叶さんだ。
やたらと近しいこの距離も気になるところだが、こめかみを押さえたいのを堪えて口を開く。
「社長」
「誰が?」と尖った声で言い、そっぽを向くとは貴方は子供ですか。