みだりな逢瀬-それぞれの刹那-
顔を合わせながらそんな言い合いを重ねて、時折キスをしてみたり。
一年前に切ってから、セミロングをキープしていた髪を撫でられると心地よい。
くすぐったさすら覚える穏やかな空間が、レンズ無しの不安をまた消していく。
「やっと笑った」
その言葉に訝しげな視線を返し、「人を子供みたいに」と口を尖らせる私。
「朱祢って案外、頑固だね」
「そのセリフ、そっくりそのままお返しします。
……私は私らしくいるだけです。ダメですか?」
――あの頃のように、自分を隠し通すことはしない。ありのまま正直にいたいから。
真顔でジッと見続けていた私の頬に触れると、何度か優しく撫でてくれる。
「朱祢が朱祢らしくいられるように、俺は全力でサポートしたい。
――無論、今後は朱祢と離れるつもりもない。だから、そちらのご要望は?」
そう言って、フッと安堵したように頬を緩ませるから、やっぱりこの人はズルい。
顔から手を離したと同時、私は目の前の肩へと頭を凭れるように預けて呟く。
「……嘘っぱちの笑顔は要らない」
「人の営業スマイルを」
「嘘っぱちで十分ですよ」
「へー、陰でそう思ってたとはね」
彼がくすくす笑う度に感じる、微かな振動さえ心地よい。この笑い方は“嘘っぱち”じゃないと教えてくれるから。