みだりな逢瀬-それぞれの刹那-
それどころか、無表情がトレードマークの男が頬を緩めて笑ったせいで拍子抜けするばかり。
「後悔する前に好きって言えっつったのはそっちだろ。
そもそも、他の誰かが来るまでの時間を楽しんでたのは俺だけじゃないだろ?」
「違うか?」と付け足し、うろたえる私の様子を至極楽しそうな視線を向けてくる。
「間宮さんの件はあくまで依頼されただけだ。まあ、ひと役買ってくれたし漁夫の利か」
「私は魚じゃないっての!」
「これまで付き合った男は4人。半年前に別れてフリーならもう大人しく釣られとけ」
「はあ!?何で知ってんの!?」
どれだけ俺様な自信家なんだ!?いちど地獄に落ちて毒気を抜いて貰って来い!
いつもなら口にするはずのそれらは彼の態度に気圧され、眉根を寄せるだけとは頼りない。
「自分のための情報収集も欠かさないんでね」
「アホか!」
「木の実は熟す前に取っても美味くない。落ちる寸前にもぎ取るのが一番だ」
そのセリフを聞いた瞬間、勝負はあっさり決まった気がした。
毅然としていたいのに返す言葉もなく、口をパクパクさせているのがその証拠。