みだりな逢瀬-それぞれの刹那-
そんな私の顔にグッと近づき、その距離あと十センチに迫ってきた。
「勿論、仕事は容赦しない。覚えとけ」
キスされると固まった私をよそに、酷薄な笑みを浮かべたのちデスクへ戻ってしまった男。
その場にポツンと取り残され、暫し呆然としているとドアが大きな音を立ててガチャッと開く。
そしていくつもの明るい声を響かせ、後輩たちが続々と秘書室に入ってきた。
つまり何食わぬ顔で後輩と挨拶を交わした男は、10秒後の状況が分かっていて私で遊んだのだ。
くそ、何もかもお見通しか!――イラつきながらデスクに戻ると、さっきの鼓動の高鳴りは見事に相殺されていた。
性格はすこぶる最悪で、綿密・緻密な計算高い男に勝つ術は見つかるのか……?