みだりな逢瀬-それぞれの刹那-


ひとりが怖いわけじゃない。案外、おひとりさま的行動も楽しめる。


この前の年末年始はロンドンに行ってきたし、会社帰りにフラリと映画館にだって立ち寄る。


車の送り迎えだって目立つから好きじゃない。地下鉄とか電車、バスでふらりと行動したい。


休日に予定のない日は、近所の美味しい定食屋やラーメン屋さんに行くのも好き。安くて早くて、あんなに効率的なランチはないと思う。


何のあてもなく歩いて、新しいお店を開拓する時間は面白い。そんな情報を同僚や友人と交換するのもまた楽しい。


だけどそんな一面を話すと、人はみな口を揃えてこう言う。――『お嬢様なのに意外』と。



財を成した人、名家、経営者、政治に関わる者なら、一度は聞いたことがある人。


嫌でも名の通る人を父に持つのが私、桔梗谷 透子である。


桔梗谷の名前はどこへ行っても逃れられず、私のイメージを勝手に作り上げていた。


――深層のお嬢様。上品な佇まいをした淑女だと。


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