みだりな逢瀬-それぞれの刹那-


社交界で見せる顔なんてまさに偶像。あんなのプロが完璧に仕立てた、桔梗谷家の長女を貫き通しているだけのこと。


口角の上がり具合に気をつける微笑ほど疲れるものはない。楽しいこともないのに、なぜ笑わなければならないのと内心では思っているもの。


それにパーティーには付きもののシャンパンより、優しい香りの芋焼酎がはるかに好き。


一着数百万は下らない絞りの振袖、オートクチュールの新作ドレス、胸元や指先で輝く数キャラットのダイヤのジュエリー……。


最新の高級品に身を包み、上辺だけの付き合いと嫌味混じりの会話。それを上品に笑う時間ほど退屈なものはなかった。


『透子さん、今日もお美しいですね』


『ありがとうございます』と同じ言葉を返す度、自分のちっぽけさを感じていたのに。



衣食住のためにある程度は必要だけど、私はお金が沢山あれば幸せなんて思わない。


もちろんこれは私がお金に困ったことがないから言えること。傍からすれば我が儘だと思われるだろう。


ただどんなものだって、使い方を誤れば人生を狂わせる。お金は大切であるとともに怖いものであるから。


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