みだりな逢瀬-それぞれの刹那-
現にあり余るお金に依存して、それを笠に人を見下して、旦那との結婚生活を破たんさせた挙句の育児放棄。――それが私の母だ。
彼女は自分のお腹を痛めて産んだ子さえ、滅多にその腕で抱こうとしない人だった。それは私の時と同じらしい。
弟が生まれて体調が戻ると、すぐに産後ダイエットに終始。
ストレッチマークがついた、抜け毛が増えたと、自分の身体の変化を忌々しく愚痴っていた。
お腹が空いて泣く弟のことをうるさい!とヒステリーに怒鳴り、私が覚えている限り笑顔を見せてくれたことはない。
すべて家政婦さん任せでショッピングやエステに出かけたり、外商を呼びつけて高級品を買い漁っていた。
そんな金にとり憑かれた母の姿は、子ども心に可哀想とさえ感じたものだ。
さらによく留守にしては様々な男に抱かれ、『綺麗』などと賞賛を浴びるのが生き甲斐。……ううん、それだけが彼女のすべてだったのだろう。
だだっ広い家に残されたのはいつも、私と弟と執事と家政婦の数名。