みだりな逢瀬-それぞれの刹那-
「Rafe(レイフ)、今日はなに?」
「なに食べたい?」
ここはシアトル市内にある一軒のフレンチレストラン。
個室をリザーブし、先に来ていた俺はひとり待っていた。
パープルのシックなワンピースに身を包み、クラッチバッグを片手に持った女性こそが“今夜の待ち人”だ。
ウエイターが向かいにある椅子を引くと静かに腰掛け、その男にお礼代わりの微笑を見せる。
「可愛いイトコの労おうかと」
面倒そうな態度の割に、スーツではなくお洒落している彼女に苦笑いして言う。
「ホントはアカネ誘って断られただけのクセに。可愛いイトコが来てあげただけ感謝なさい」
「……自分で言うか?」
「ビーフとフィッシュ、両方よろしくー」
「コース無視か」
「ワインも赤と白の両方、ボトルでね」
「ちょっと待て」
「お腹ペコペコなのよねー」
「今日アンタのせいでランチ抜きだもん」と、嫌味まで付け加えられては閉口するのがベター。