みだりな逢瀬-それぞれの刹那-
里村家と私の菊川(きくかわ)家の間にさほど交流はない。
ちなみに里村が本家にあたるが、父は婿養子として菊川姓を継いでいる。
本家との仲は険悪でなかったものの、顔を合わせる機会は滅多になかった。
それは父とその妹こと彼の母親の兄妹仲がさして仲が良くなかったためだろう。
子供の私たちは連絡先を知っていても、密に取り合うことはない。……まあ、近からず遠からずといったところか。
「油売ってないで、マダム達にその胡散臭い笑顔でも振りまいてきたら?」
毒を吐いてもまったく効きめなし。大袈裟に嘆息する私の耳元に近づくと、皇人が囁いてくる。
「こんな時じゃないと会うこともないし、“妹のため”に頑張れば?」
「妹を唆したの?やめてよね」
「あかねは素直だから」
睨むのだけでは足りず、チッと舌打ちもプラスしておく。ああ忌々しい男だ。
さっきのひと言は悪い意味で捉えるべき。――要は、妹をバカにしているから。
「あの子が幸せになれるなら、姉として本望よ」
笑顔を貼りつけた鬱陶しい顔を手で押しのけると、腕組みをしてそっぽを向く。
どんなに性格に難ありな子であっても。やっぱり血を分けた妹だし、これは心からの願いだ。
「――無理だな」と、即座にその希望を否定した冷たい声で私は視線を戻す。