みだりな逢瀬-それぞれの刹那-


「どういう意味だ」


「アカネ本人が、変わりたくないと思ってる心を変えようとしても無理よ。
必死に頑張ってるの。だから、彼女に釣り合う男にならなきゃ助けてあげない」


「……時期尚早なんだな」

嘆息して結論づける俺に対し、ふるふると頭を振ってNOを示す。


訝しげな面持ちの俺に一歩も引かず、グリーンの瞳は真っ直ぐこちらを捉えている。



「アカネは色んなものを抱えてると思う。その気持ちは誰にも分かってあげられない。
でも、真剣だったから生まれ育った日本を離れてきたのよ。――その覚悟が彼女の支えだってこと、覚えておいて」


真緒の性格は男を負かすほどパワフルだが、日本人の母親の躾ゆえか人情に厚いところがある。


アカネの新しい恋愛が考えられない事情を知ってのアドバイスは、俺に向けてのエールにも感じられた。



「じゃあ、その時が来るまで待機してるよ。もちろん、守りながらね」


そう返せば、「よろしい」と賛辞をくれた真緒と再び乾杯。


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