みだりな逢瀬-それぞれの刹那-
怒り任せに言い返そうとしたものの、皇人の興味は私からとっくに逸れていた。
そんな勝手な彼の視線を追えば、遠く向こうで高瀬川 叶に寄りかかる、妹のあかねを見つけた。
「だろ?」と、冷めた眼でその光景を見続ける皇人はやっぱり人が悪い。
「――でしょうね。裏の顔があるから、ちょっと心配してる」
但し、それは私も同じ。周りに届かないほどの声で、珍しく同調しておく。
高瀬川 叶といえば、IT業界のトップを追随する大手企業の御曹司であり、現在は経営者だ。
それに加えて、端正なルックスに惹かれる女性は多い。皇人も同じだけど……。
すると暫くして、フッと鼻で笑った皇人に視線を戻せば、策士に満ちた表情をしていた。
「ま、あかねには頑張って貰おうか」
「ちょっと!利用するつもり!?」
「まさか」
飄々として答える彼を睨もうが効果ゼロ。――打算的なところは叔母譲りだな!
もう呆れて物も言えない私は、軽く手を挙げて去り行く彼の背中を見送った。
「……相変わらずですね」
「決して、“あれ”と一緒にしないで下さい」
隣にいながら傍観者に徹するのが早水。あの男に対抗どころか打ち負かせるはずなのに、彼は絶対に口を挟まない。