みだりな逢瀬-それぞれの刹那-


ようやく口を開いたかと思えば、近くにいたウエイターからグラスをふたつ貰った。


そしてぐったりしている私に手渡すと、軽くグラスを掲げて乾杯の合図をした。


黄金色の中で気泡が弾けるシャンパンの味は確かなもの。里村家がホストのパーティーで安い酒は提供されるはずがない。


ただ、今日の気分を盛り上げる材料とはならなかった。それどころか悪酔いしそうだ。


妹のところへ向かうおうかと思ったけども。お目当ての男にべったりくっついている姿を見れば、そんな気もあっさりと失せた。



妹を引き寄せている、高瀬川 叶。――あの瞳は、あかねをまったく見ていない。


前とは顔つきが変わってしまった彼。悲しい瞳を笑顔で隠しているのに、なぜ周囲は気づかないのか。


実は透子と彼は私の大学時代の後輩だから、その理由は何となく分かっている。


ただ彼のことを不憫には思わない。結局、顔と性欲を盾に女を弄んでいるじゃないかと。


あかねもあかねだ。先輩の彼氏だった男を狙おうとする気持ちがとても理解できない。


まあ、男女には常識や理屈では語れないことが色々と起こるのも事実だ。


私の関知するところでもないから、彼らの行く末は傍観するのが一番だろう。


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