みだりな逢瀬-それぞれの刹那-
それでも薄暗い辺りをキョロキョロし、最悪男(皇人)を探していた。
かの男の評価は私の中でたった今、“飄々男”から評価を変えてあげた。
――ふざけんな!何で私の知らないとこでそんな話が上がってんのよ!?
「――そういうことでしたか」
隣から聞こえた冷静な声色に、宙空を彷徨っていた視線は一瞬で止まる。
そして、隣にいる早水と目が合った瞬間。ふと悲しげな微笑を見せたから、胸がギュッと締めつけられた。
「ごっ、」
“誤解に決まってるでしょ!”と、口にしかけた刹那。
そこで私は、やってきたスタッフによって壇上を目指して引っ張られて行く。
出席者よりも一段高いそこに立たされる。その隣には、私同様に連行されてきたらしい皇人が不機嫌な顔をしている。
「寝耳に水だ。何だこれ?」と、彼が耳元でひっそり告げてきた。
その表情は焦りも覗かせており、珍しく嘘だとは思わなかった。
ただ今は、皇人が企てたとかそんな真実なんてどうでも良くて。
……私が求めているのは早水ひとりなのに、どうして上手くいかないの?
人混みの中、ただひとりを探していた刹那。会場のドアをそっと開き、出て行こうとする早水の姿を捉えた。
“待って”と叫ぶことも出来ず、ドアは彼を絶てと言うように静かに閉まってしまう。
涙も声も何も出ない。ずっと言わずにいた本音をこの時、初めて後悔した。
手放したのは私なのに。いま隣にいるのは早水じゃない。これでもう終わりなんて惨すぎる。
いくつもの拍手と眩しいフラッシュを浴びながら、頭の中は喪失感で真っ白だった……。
#【6】追撃の余地★終
皇人の登場で離れてしまったふたりの今後は…?
時系列としましては、朱祢さんの入社する1年ほど前です。