みだりな逢瀬-それぞれの刹那-
「俺も知らねーって言ってんじゃん。あれはアホな茶番だったな」
「そのアホな茶番の“主役”に祭り上げられてんのよ!」
睨みを利かせても、胡散臭い笑いが返ってくるだけ。終わりの見えぬやり取りをするほど不毛なものはない。
ドレスとタキシードをそれぞれ着たままの私たちは、突如パーティーの主役に祭り上げられた。
“違う!”と否定しようとも身内の諍いはとても披露など出来ず。結局、逃げるに逃げられずラストまで居残りする羽目に。
「何なのよ!?アンタのたぬきオヤジ!」
「プッ、メタボ親父に上手いこと言うな」
そこでいきなり“婚約者”となったいとこの皇人に対し、作戦会議という名の事情聴取を行っているのだ。
「そこじゃないわ!」と怒鳴るが、これではまた無駄にカロリーを燃焼しただけ。
鼻息荒く椅子に座り直し、目の前に置かれた赤ワインの入ったグラスを掴んで飲み干す。
乾いた喉を潤してはくれるが、酒におぼれても何ら解決策は見い出せない。
美味しいけど、今夜はこれでストップしよう。……もう5杯は飲んだけど。
はぁ、と苛立ちを含んだ溜め息を吐いてグラスを置く。すると、優雅に足を組み替えながら向かいの男が口を開いた。