みだりな逢瀬-それぞれの刹那-
「まりか、既に経済界にこの話は回ってるぞ。静香から連絡入った」
「静香って……ああアンタの秘書ね。“夜”までアンタの世話で大変な」
呆れて言えば、「気まぐれだ」とさらり返してくる彼は女を何だと思っているのか。
結局、皇人は今も女性に固執していない。いや、透子ちゃんのことをずっと引きずったままなのだろう。
勝手に結論を出すと、表情を引き締めて彼を再び見る。そして、「つまり?」と本題に戻す。
「逃げられねぇだろうな」
「そんな……!私たちいとこじゃん!?」
「法律上は問題ない」
「分かってる!」と精彩を欠いた反論は、冒頭の短絡的な発言のせいにしたい。
動転している私をよそに、内ポケットからガラムの煙草とエス・テー・デュポンの洒落たライターを取り出す彼。
公の場や職場でも吸わないスタンスなのだが、どうやら苛立っているのは私だけではないらしい。
小さな金属音とともに1本の煙草に火が点けば、その紫煙をくゆらせ始めた。