みだりな逢瀬-それぞれの刹那-
「何が言いたいわけ?」
そこで視線を戻し、人の心に容赦なく立ち入る男を睨みつけた。
「利用されてでも一緒にいた方が幸せだったんじゃないかとね」
「……利用してるって言われた方がどれだけ楽か」
と言いつつ事実を直視せず、受け入れていなかったのは私か。そんな考えに辿り着き、フッと自嘲する。
「都合良すぎだろ」
「っ、分かってる!分かってる…、けど」
これでは皇人に八つ当たりをしてるも同然。我に返って口を噤めば、しれっとした顔で見てくる彼。
「あかねの方がいっそ清々しい」
そのひと言は尤もで、反論はおろかぐうの音も出ない。その通りだと甘んじて受け入れる。
私は仕事仕事とのめり込むうち、愛情表現の仕方さえも忘れたのだろうか?
早水が会場を去る瞬間、醜聞を気にせずにあとを追いかけるべきだったのに。
何処かでいつもの様に待っててくれるはず、と淡い期待を持って甘えていたのだ。