みだりな逢瀬-それぞれの刹那-
しかし、彼はどこにもいなかった。スマホの履歴にも彼の番号はなかった。
電話をかけてみたが留守電に接続され、虚しいアナウンスを聞けただけだ。
無機質な発信音を聞きながら、結局なんの伝言を残すことも出来なかった。
“約束”は私たちを7年間繋いでいたものの、あまりに呆気なく途切れた。
「……私の気持ちに気づいてたの?」
「似た者同士じゃん」
「え?…ああ、」
一瞬、考えたがすぐに合点した。――彼もまた苦い経験とともに生きていると。
皇人は亡くなった透子ちゃんのことをずっと想い、そして今も悔やんでいる。
高瀬川君の彼女だからと静かに見守っていた点も、じつに彼らしいというか。
「それより!明日の夜は正式に婚約発表するって言ってたけど、本当にどうすんの!?」
そうだ、今は感傷に浸っている場合なんかじゃない。本当に時間が無いのだ。