みだりな逢瀬-それぞれの刹那-
焦りながら質すと、彼が短くなった煙草をバカラの灰皿に押しつけた。
「――目には目を。まあ、大人しくしてろ」
酷薄な笑みを浮かべつつ、絶対零度の声を発した皇人の眼は鋭い。
いつも性格が悪いと思っていたけど、ヤツの本性を垣間見た私は唖然とするばかりだった……。
* * *
そして翌日の朝は、ダイニングテーブルで甘いミルクティーを飲みながら朝刊チェックをしていた。
パーティー後に派手に遊びに行ったのだろう、母とあかねは朝7時を過ぎた今もリビングに現れない。
これはいつもの事なので関知しない。おまけに絶賛・怒り心頭中なので顔を合わせないのが吉だ。
ボブヘアもきちんと整え、珍しく大人しめにライト・グレー色のセットアップ姿で席を立つ。
家政婦さんに笑顔で見送られ、ガレージに停めていたポルシェにひとり乗り込む。
エンジンを始動させて、今日も軽快な音を響かせる愛車で今日も家を出発した。
自宅から会社までは車で約20分ほど。大好きな音楽を聴き、気持ちをリフレッシュさせて向かうのが常だ。
ただ今日は、とてもそんな気になれなかった。どんな顔をして会えば良いのか、そればかりを考えていたために。
しかし、現実は甘くない。会いたくない、逃げたいな、と思っているうちに本社ビルに到着してしまった。