みだりな逢瀬-それぞれの刹那-
きちんとフラれるより、フラれるのを恐れて逃げる方が絶対に後悔するのに馬鹿だ。
その時、トントンとドアをノックする音が響いた。
呆然自失だった私は慌ててソファから立ち上がり返事をしたが、その光景は間抜けなものだろう。
カチャリ、と一方の扉が開くと中へ無遠慮に入ってくる人物に目を見張った。
「き、みひと?」
「昨日ぶり」
「嫌味か!」
昨日とは違い、ビジネスライクなスーツスタイルの皇人がその言葉で一笑した。
「何でここに?」
「そりゃあ用事があるから」
「そもそもどうやって入ったの?面倒だから直接連絡してよね」
紛いなりにも役員の私。そして就業前の現在、アポを取るのは難しいはずである。
訝しげな顔をする私をよそに、彼は向かいのソファへ腰を下ろして足を組んだ。
「まりかの“犬”に連絡した。朝イチで会わせろって」
早水が聞いたら苛立ちそうなセリフだが、第三者からすれば私と早水はそう映るのだろう。
「そう、……早水が」
そんな連絡さえ私は彼に貰えなくなったのか。……ああ早水からすれば、皇人とは婚約関係だから気を使ったとか?