8分間のハミング
ハミングに誘われて


わたしは学校に行くとき、自宅から徒歩15分のバス停を利用する。

集合住宅街の外側、少し広めの道沿いにある、ごくごく普通のバス停だ。

春の空みたいな青色の目印はいつも、静かな朝の光を浴びてバスの到着を待っている。

そして決まって毎朝、そののっぽな目印のすぐ隣で、目印と同じくらいの高さの男の子が一足先にバスを待っているんだ。


……あ、今日も先に待ってる。

10メートルほど先の場所に確認した姿に少し驚きながら、制服のブレザーのポケットからスマホを取り出す。

時間を確認すると、バスの到着予定時刻のちょうど8分前だった。

確かあの人、昨日もこの時間にバス停に居た。一昨日も同じ時間に来たけど、わたしより前からバスを待っていた。

思い返せば月曜日から金曜日の今日まで、毎朝あの男の子はわたしより先にバス停に居る。

決まっていつも、8分前。
月曜日は10分前に来たけど、あの人の方が後から来たもの。


このバス停を利用するようになって、今日でまだ5日目。

わたしが住んでいる住宅街から先日入学したばかりの高校前まで運んでくれるバスが通るのは、このバス停だけなのだ。

この5日間で分かったのは、男の子が8分前にバス停に来ること。そして彼が着ている制服が、わたしが通う女子校の隣の男子校のものだということ。

そしてこの時間帯にバス停を利用するのは、どうやらわたしたち二人だけらしい。

あともう一つ、分かったことは――。



「~♪♪~♪~♪~♪♪~♪~」



……彼がいつも、ハミングをしながら待っていること。

春の空気に響く軽やかなメロディーを、彼は毎朝奏でているんだ。


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