8分間のハミング


男の子は朝日に透けているモカブラウンの後頭部を触りながら、明らかに緊張しているであろうわたしに遠慮がちに尋ねてきた。


「さっきの着信音って、もしかして“BLUE‐HEAVEN”の曲ですか?」


あの、まだ一言も良いとは言ってないんですけど……。

彼が言う直前にそんなことを思ったけど、飛び出してきた言葉に驚きすぎて瞼が上がった。

丸まった瞳は男の子の視線と重なる。

ああ、やっぱり。
声にはなっていなかったけど、彼の唇が嬉しそうにそう動いたのが分かる。

穏やかに弧を描く瞳と唇で彩られた笑顔に、胸の奥が熱くなった。
彼のハミングを聴いているときと同じように心が躍っていそうだ。

どう返すことが無難なのだろうと考えるけど、そんな大層な言葉などもちろん浮かぶわけもない。

だから結局、彼の質問に首を縦に振ってそのままのことを答えた。


「お、おっしゃるとおりです。“BLUE‐HEAVEN”の曲ですよ」

「やっぱりそうなんすね! 俺、ブルへブの大ファンなんですよ! だからさっき鳴ったとき、すぐに分かったんです」


興奮しているせいか、彼の言葉から少しずつ敬語が消えていく。きらきらと目を輝かせている姿が少し新鮮だった。

本当に、心から好きなんだろうなぁ。

いつも“BLUE‐HEAVEN”の曲ばかり奏でていることや、その音に込められた優しさから、その気持ちは十分伝わってくるぐらいだから。


“BLUE‐HEAVEN”は、正直言ってまだ知名度の低い地元出身のデュエット歌手だ。

たまたま地元のラジオ番組で流れていた彼らの曲を聞いて、1年ほど前からわたしは密かに興味を持つようになった。


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