Insane Magic
Act.1-Ceres...



―――自分が此処にいる意味を、理由を、

教えてほしい。



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その日は大雨だった。
まるで空が嘆いているかのような。

村と村を繋ぐ、一本の古びた道。
その道の途中にある、これまた古びた教会。教会と言うよりは修道院と称した方が良いかもしれない――古びた建物。
その修道院で身寄りの無い子供達を見守り育てる年老いたシスターはその日、ある拾いものをする。――否、"物"とは異なるのだが。

洗濯物を取り込もうと、慌てて庭先に出た時だった。

木々の合間に見えた、目も覚めるような真紅。
シスターが目を凝らして見てみると、それは人の頭だと言うのが判った。


こんな雨降りの中、森の中で何を。

そう思ったシスターはゆっくりと其方へ近付く。


すると、その先には腰辺りまである長い紅髪を持つ子供――と言っても年齢的に17、18ほどに見えるが――が、立っていた。
此方には背を向けて、ただただ一点を凝視している。
ずぶ濡れの格好で。

シスターは驚かせてしまわないように、そっと声を掛けた。



「もし――…あなた、そんなところで何をしているの?」

「………見ている」

「見ている?何を?」

「魔物を」

「………!」


声変わりをして、まだ間もないと思われる声。
シスターには気付いていたのか、声を掛けても特に驚いた様子は無く、問いかけには落ち着いた口調で言葉が返る。
シスターが彼の足元に眼を向けると、其処にはウサギ型の小さな魔物が腹部から血を流して倒れていた。彼はそれをただ凝視しているのだ。



「…その魔物は、あなたが?」

「違う、俺が来た時には倒れていた。この傷は人間によるものだ」

「………」



シスターは、ただただその背中を見つめた。上手く言葉で表現は出来ずとも、言いようの無い不可解な感覚が彼女を包む。
修道院の子供達とも時折訪れる人間達とも異なる、不可解な感覚。

まるでヒトではないような、そんな感覚だった。



そして、シスターのその予感は正解だった。


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