Insane Magic


「…人間は、皆そうなのか?」

「―――え?」


不意に、唐突に少年が呟いた。
視線は未だに倒れている魔物に向けられたままだが。
シスターは突然の事に思わず疑問の声を洩らす。
すると、彼は漸くシスターを振り返った。ゆっくりと。

その風貌を見て、思わずシスターは片手で己の口元を押さえ、眼を見開いた。


整っている風貌は、見事に暴行されたような痕があったからだ。
特に痛々しく感じられたのは、額から右目上部まで走る裂傷。傷跡は、まだ真新しい。傷を付けられて、まだそう時間も経っていないものだと思われた。



「…人間は、自分と異なる存在は力で排除しようとする。俺も、この魔物も」

「…異なる…?でも、あなたは…」



シスターの目の前に居る彼は、確かにヒトだ。人間の形をしている。
だからこそ、シスターにはその言葉が理解出来なかった。彼は一体何を言っているのかと。

だが、その疑問は直ぐに晴れる事になる。

不意に、ゆっくりと彼の背中から悪魔のものに似た黒い翼が生えたからだ。




「……俺は人間じゃない…」

「……っ…」

「悪魔だと、人間達は口を揃えて言う」



そうしてシスターは悟った。
彼が負う傷は、その時に人間の手によって付けられたものなのだろうと。
確かに、その黒い翼は悪魔に見えない事も無い。

だが、それでも。



「(悪魔だなんて、この子はそんな見た目していないのに…)」


確かに翼は悪魔に酷似している。
しかし、見た目や風貌は翼さえ無ければ人間のもなのだ。
それに対し、人間が暴行を加えたと言うこと。
シスターは純粋に胸が痛むのを感じた。


だからこそ、シスターは目の前の人間か悪魔か、はたまた魔物なのか判らない彼を放っておけなかった。




「いらっしゃい、傷の手当てをしないと」

「……?」

「あなたは悪魔になんて見えないもの、…さあ。その子も、手当てをしてあげないとね。こんな雨の中では死んでしまうわ」


そっと差し出されたシスターの手に、彼は不思議そうに眼を丸くさせる。
何度かその手と彼女とを交互に眺め、そして不可解そうな表情を滲ませた。



「……お前、俺が怖くないのか」



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